魔法の国が消えていく
・いろいろ2 ネギま!
運良く、ネギま! をちゃんと読んでいる人の話を聞くことが出来ました。
単行本で確認できるようになった重要なポイントが2つありますが、私が重視しているのは次のうち後者です。
1:ネギは(少年漫画の主人公らしからぬ)復讐者である。
2:魔法の国が消えていく。
ネギま! は単なるパンチラ萌えマンガとして認識されがちですが、実は良く計算されたストーリー作品です。チラでもないし。
よくあるドラえもん式の日常ループ作品ではなく、伏線を仕込み、イベントによってラストに必要な情報を出し続け、結末を盛り上げるよう、深く静かに物語を進行させているのです。
とは言え本題が始まるのは8巻(ヘルマン襲来)からで、1巻〜7巻まではキャラ紹介。それまでの伏線はわずかに1コマ。しかもこれは9巻からの学園祭編で使う分でした。
しかし現状の伏線とその回収は他に類を見ない勢いです。
8巻のヘルマンは復讐の直接の対象ですし、これがネギの動機付けをしています。9巻からの学園祭編での対処が、29巻から(と言うかクライマックス)の行動方針を決めることになります。
経緯を説明しておくと…
超は火星から来た火星人と名乗り、魔法を全世界にバラす事を目的としていました。
悪(異文化との接触で起こる混乱の発生)を行い、
善(魔法の開示で得られる利点の獲得)を成す。
動機は、賛同していた龍宮いわく「いまも世界のどこかで起こっているありふれた悲劇」の回避です。
28巻で、魔法世界が火星に作られている事と、魔法で作られた空間はしばらくで壊れることが明らかになりました。
つまり、魔法の国が消えていくのです。
超の目的は、魔法の国の崩壊時に発生する移民の受け入れ準備だったのでしょう。
ガンダムの一年戦争は独立戦争でしたが、超のソレは併合戦争とでも呼ぶべきでしょうか?
なるほど、幼い頃から中東の紛争地帯で戦ってきた龍宮の視点だと「いまも世界のどこかで起こっているありふれた悲劇」ですね。
魔法世界の大戦の黒幕に対し、何人かが「絶対に勝てない」と言っていますがナギはこれに勝ちます。
いろいろ省略しますが、プログラムも組める作者のスキルと、物語上の役割として「最強無敵のNPC」であるラカンを制した技名(ライフメーカーズ・コード)から、ラスボスは、魔法世界を構築している魔法そのものに干渉できるようです。
大元のコード(ソースコード)を書き換える能力があるわけですね。
しかも、魔法世界の出身者は(OS配下のアプリであるかのように)管理者権限を使われてしまいます。
純粋ウイザードであるアルや、魔法世界出身のラカンの視点では、ソースコードを書き換えられる相手に勝てるわけがないワケです。
ラカンのバグさを強調していたのはこのためでしょう。なにしろ単純な強さではラスボスを倒したナギと同レベル。つまり、OS上で動くアプリケーションのくせにOSを倒しうる戦力を持っているのです。これをバグといわずになんと呼ぶでしょうか?
以上のように、ナギのように地球出身であるか、アスナのように自分もコード書き換え権限を持たない限り、ラスボスには勝てません。
そもそも戦える土俵に立てないワケです。
なるほど、こりゃフェイトもこのコンビを排除したがるわけです。片方でもヤバいのに、両方そろった上に手を組んでいるわけですからね。
※ アスナは「魔法への完全耐性」を持つように見えますが、意識しないと無効化できない事や、アンチマジックしつつ自分は魔法(など)が普通に使えることからも、コード書き換え能力(あるいは魔法無効化に限定された書き換え能力)でないと整合性が取れません。
ちなみにアスナとネギの母の苗字(フルネームの末尾)は一致していますが… これは親戚程度に考えておくべきでしょう。
名前・ミドルネーム・ミドルネーム・苗字という構成の場合、特に貴族/王族だと、ミドルネームが分家/領地名を示す可能性が高いからです。
例えば「ゼロの使い魔」のルイズの姉カトレアは分家して別の家(ド・ラ・フォンティーヌ)の家長になっていますが、ル・ブランの部分は共通して残っています。
このように、苗字(と思われる部分)が違っても直接の姉妹だったり、逆に同じ苗字だからと言って家族とは限らないのが貴族の命名の難しいところです。
まぁぶっちゃけると、ラブコメなのにカップリングできなくなりますし、ネギ母は(魔力自体は強力な描写があるのに)コード書き換え能力があるようには見えないんで、近い親戚ではないでしょう。
アスナが血族の中でも特別な能力があったとみなすべきかな。
※ ネギは、高い戦闘力を持つ地球人の父と、始祖の血族であるためコード書き換え権限を持つ持つ母を両親に持ちます。
この二人の子供であるネギは一人で問題を解決できるように見えますが、人気マンガの三要素、努力・友情・勝利のうち友情が不要になるため、つまりアスナの出番確保のため、ラスボスには何らかの理由で中途半端にしか立ち向かえないでしょう(例えば母と同じように権限だけしかないとか)。
さて。確認のために8巻に戻ると、ヘルマンはネギとアスナの能力の確認や応用のために来訪しています。
魔法世界ではなく現実世界でもアスナの能力が有効で、しかも応用可能だったことから、シナリオが大きく進むわけです。
9巻からの学園祭はなんと18巻まで続きます。10冊ですよ!
シナリオ進行的に重要なのは、生徒たちの役割付けと、クライマックスでの行動/選択の理由付けでしょう。
生徒の役割付けは1巻〜7巻もふくまれますが、学園祭では魔法バレの有無と、生徒自身の魔法能力(仮契約も魔法能力に含む)の明確化が顕著です。
これはクライマックスでの意志や立場の表明、その裏づけに役立てる伏線になります。
クライマックスそのものに関しては、超が来たこと自体が戦争級のトラブルの発生を示唆しています。『魔法バレ=異文化との接触=戦争の発生』は歴史的に明白ですよね。
そこで最初のステップとして、まず魔法があること自体を公表し、衝撃を減らそうとしたのでしょう。
超は、ある意味T-800のように、トラブルの原因自体を(少なくともその1要素を)排除しに来たわけです。
ですが、ネギたちは超の作戦を妨害しています。
妨害しただけの責任を取る必要があります。
ところで、魔法世界側の政府は無策だったわけではありません。
「立派な魔法使い」に代表される「魔法使いは良い人たちです」とアピールする地道で成果の疑わしい作戦ですが、ともあれ、良い影響だけを与えようとする方針です。タカミチの例で示されたように、情報は厳しく管理されていますしね。
これはこの作品で最初から明言されてきた「立派な魔法使いになる」というテーマと一致します。
ですからネギの選択は、コード書き換えによる世界の一新ではなく、地道な努力の継続となるでしょう。
1巻の最初で「立派な魔法使い」になるための課題として先生になることと示されたように、一番最初から軸がぶれていない主題なワケです。
28巻で出てきた「世界の半分をあげよう」は、比ゆではなく直接的な事実なんですね。
お約束な質問ですが、こうして裏づけがある状態で言われると、重みと言うか、読者としては面白さが増して楽しいわけです。
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説明が前後して申し訳ないんですが、生徒たちが各地に飛ばされたり、夏休みで魔法世界に旅行に来ている生徒がいたり、援軍としてタカミチと龍宮が来たのも(コイツらに関しては9冊以上登場しないことも含めて)伏線になっています。
異文化との接触によるトラブル。超が避けたかった/無い事にしたかった戦争に関して、これが答えというか、指標になるわけです。
それぞれの役割について解説しましょう。
明石・佐々木ペア:
「自分は魔法を使えない」けれど「魔法を使える父を持つ」人種で、しかも親子仲が上手く行っている例として貴重でしょう。併合後の世界で必ず出てくる不安に対して有効です。
佐々木は、魔法と完全に無縁で、なおかつ言葉の通じない地域でも上手く暮らしていける事を証明しました。
綾瀬:
魔法の使えない現実世界出身者でも、魔法世界の魔法を必要とする職に就くことを証明しました。このためにわざわざ記憶喪失にされて、ゼロからスタートでもOKと証明させられました。ご苦労様です。
この役割のため、事件が解決しても彼女がアリアドネーの騎士団員の地位を返上することはないでしょう。
以上はネギと別行動組ですね。
ネギとすぐ合流した連中や、魔法が使える連中は省略ね。
和泉、大河内:
ネギと一緒にいたけれど、魔法に縁のないカテゴリです。やはり、魔法なしでも上手く暮らしていける証明となるでしょう。
犬上+村上:
現実世界にも亜人はいて、普通のヒューマンと仲良くやっていける事の証明。約半数がデミヒューマンな魔法世界ですから、併合を控える状況では非常に重要でしょう。
残りの連中は、仮契約済みか特殊能力もちか、ネギに非常に近い関係者だったりするので、クライマックスに普通に出番があるでしょう。
特に長谷川+絡繰コンビは、今度は味方になってタッグを組むでしょう。敵がソースコードをいじってきますからJM的な意味で重要人物です。アスナはバカ代表ですから、プログラマ的な思考と実行にはこの二人が欠かせません。
ぬげ女ことグッドマンは「魔法世界生まれ」だけど所属は「現実世界」。
謎のシスターこと春日は出身は「現実世界」だけど所属は「魔法」側。
タカミチは… オトナは除外されるな(^^;
龍宮は、超の件を思い出させるというか、難民移民併合に関して解説する役が必要です。ほとんどの読者は、こんな風に読み解いたりしないですからね。
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はてさて。
逆転裁判で勝利に必要な証拠を揃えるかのように、ネギま! でも必要な伏線が用意されてきました。
謎の黒幕と戦うために必要なもの。例えば戦力、例えば謎の解明。
行動を決めるための、判断材料としての知識や経験。
これらは、多くの人数とさまざまな立場を必要とします。
テーブルトークというか、ゲームのシナリオライタ、あるいは運用するマスタ的な視点は別に書くとして、クラスごと、その人ごとの特徴を活かした役割分担をしていますよね。
魔法なし、仮契約なし、特殊能力なしと、普通人の代表みたいな大河内・佐々木も、それ自体が必要な役割として機能しています。
こうなってくると、フェイトが強制テレポでみんなを飛ばしたことも怪しいわけです。
現実世界の人間(ネギの生徒たち)がすぐ死ねば、ネギへのダメージとか世界の併合が難しい(戦争してでも強引にやるべきだ)事の証明材料になりますが、結果は逆ですよね。
そして、フェイトは情報管制の厳しい魔法世界ではなく現実世界にいたので、学園祭の一部始終をチェックできます。だからヘルマン派遣による情報収集が失敗したけれど、学園祭で帳尻が合ってるはずなんですね。
未来から、併合のトラブルを無くすためにネギの子孫が来る。いや、来た。
ネギの子孫であることは情報が漏れないとしても、目的は逆算できる可能性が高いので…
いや、これは考えすぎか。
でも、フェイトの味方フラグを建てるには重要ですよね。
というか、フラグを建てるにはここをいじっておく必要がある。
魔法世界編の大筋は見えましたが、細部はいまだ不明です。
(特に、アンケートに敏感な作者ですしね)。
※ 仮に魔法世界にいても、学園祭では魔法世界から機材の大量貸し出しがあったので情報漏れの余地はあります。
※※ 大量の機材を魔法世界からすぐに借り出せたのはその後の設定と食い違うかも。21巻のドネットいわく「週一、酷い時は月一」です。
もちろん、緊急時に無理やり開ける裏技があるかもだし、実際タカミチと龍宮は後発で来たから、描写上も不可能ではないんだけどね。
※※※ 参加者のあるゲームと違い、マンガでは描写でやりくりが付けられればそれで構わない。設定にこだわるのはむしろ有害。
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さて。
取り留めなく書いて長くなりすぎたし、続きはテーブルトークと絡めるから、とりあえずはここでおしまい。
ただ、一つ言いたいのはネギま! は良く出来たストーリーマンガだって事です。
ここまでに挙げた内容を振り返ってください。
・主人公は復讐者
・舞台は併合戦争の回避
※ 英雄の活躍の場としての戦争の回避であって、実際には戦争を扱うわけではないが、親子二代に渡って同じ問題に直面している。
コレを、人気マンガに仕立てることが出来ますか?
富野やシロマサや押井といったわずかな成功例はあるにせよ…
萌えとパンチラとハーレム抜きで、自分がメシを食っていく作品に仕上げられますか?
ガンダムやダグラム(どちらも独立戦争が失敗する作品です)くらい、あるいはボトムズくらい、ダークでテンションの低い作品になりますよね。
お通夜のように暗いハナシを週刊連載で書いてたら、作者が精神的にイッちゃいますよね。もちろん読者だって付いて来れない。
※ 世の中にはデスノートみたいな例外もありますが…
ただ、あれは劇薬を毎週投下してたからねー。連載としての寿命も短いし。実際、6巻(初代エル死亡)で一度終わったし。それと、原作付だから負担も軽いし。
それでも、「7巻もキャラ紹介をやるのは長い、7巻も萌え分だけに付き合いきれない」そういう意見もあるでしょう。
しかし、8巻以降の本編に出演するキャラを31名から選抜していた、普通さや特殊さも含めてキャラを周知するのに必要だった、とは言えないでしょうか?
例えば、那波と村上はどちらがコタローとくっついてもOKですが、結果的に魔法世界へ付いて来たのは村上です。選抜の結果とは言えないでしょうか? アンケートの結果を反映したとはいえないでしょうか?
切り方が中途半端だけど、とりあえずここでおしまい。
いろいろ書けるけど、あとはテーブルトーク絡みに回します。